混乱していた「現場の地図」
2016年、私が業務請負契約で現場に入った当時、アーバンコアの施工図担当者は激務により3人が現場を去り、情報は断絶状態にありました。
地下の躯体図は完璧でしたが、鉄骨情報との整合性が取れておらず、誰も「どこで梁が干渉するか」を把握できていませんでした。
私はまず、各階総合図と上下鉄骨図のデータを重ね合わせ、色分けによって干渉を一目瞭然にする「鉄骨検証図」を作成することから始めました。それは、迷宮と化していた現場に「地図」を描く作業でした。
2次元の司令塔と、3次元の部隊
各階複雑な「捻れ」を持つカーテンウォール。工務担当社員は皆最新の3D CAD(レギュラー版)で挑む中、私の武器はノートPCに入った「AutoCAD LT 2006」のみでした。
私は「3Dオブジェクトを作成する」ことを捨て、「基準となる接点座標(Coordinates)」という絶対的な正解を管理することに徹しました。
私がLTで「3D座標情報を平面/断面に可視化」し、それを基にサッシメーカー(Fサッシ)が3Dモデルを作成。そこで見つかった干渉を再び私が2Dで修正し鉄骨製作図に反映する。この「2Dを司令塔としたループ」により、現場の不整合を次々と解消していきました。この方式で解が導かれていきます。当初アーバンコアのみが私の担当だった筈が、アウターサッシまで担当することになりました。
秘技:AutoCAD LTによる「3次元ガセット」攻略
工事が進むにつれ、複雑な形状の「3Dガセットプレート」を2次元図面化する必要が生じました。鉄骨FABの設備が3Dモデルを正確に読み込めず、さらに構造設計者が承認用として「紙の図面」を求めたためです。
急遽呼ばれたBIM専門業者は「ゼロから作り直すので膨大な追加予算がかかる」とサジを投げました。そこで私が、AutoCAD LTの機能を極限まで応用する「裏技」を見出し、これを解決しました。
手法はシンプルかつ強引です。まず、サッシメーカーに依頼して3Dモデルのガセット表面に「小さな丸穴」を開けてもらいます。次に、LT上でその丸穴の中心と四半円点を捕捉し、「UCS(ユーザー座標系)」をその斜めの面に合わせます。
こうして斜めの面を一時的に「平面」と認識させ、ペーパー空間(レイアウト)に投影することで、高価な変換ソフトを使わずに正確な2D製作図を描き出しました。
PROJECT EPILOGUE
ガセット攻略後も、私はヒカリエ接続部のEXP.J、地下吹き抜けのシースルーEV追加、西面の将来用鉄骨仕込みなど、手つかずの難所を次々と担当し、鉄骨建方がある程度進んだ段階で現場を去りました。
最後には「屋上ガーデンテラスも担当してくれ」と頼まれましたが、自身の別現場も始まっていたため、それは固辞して役割を終えました。
後日、竣工したビルを訪れた際、私が描いた頃とは壁や天井の仕様が変更されているのを目にし、「きっと後任の担当者も相当苦労されたのだろう」と、同志への想いに耽ったことを思い出します。
「道具に使われるな、道具を使え」。
これは、幾何学の基礎と現場の知恵が、最新のテクノロジーを凌駕した記録です。